職場におけるメンタルヘルスケア 第3回
※このコンテンツは、上田市商工会議所様広報誌にて2020年00月〜00月まで連載されていた寺沢英理子先生の投稿記事です。
―何でそうなるの?―
これまで、心の健康診断・定期診断の話をしてきました。今回は、個人の問題が職場の人間関係に大きな影響を与えた事例を紹介します。複数の事例をアレンジして脚色を加えています。
【事例C】Cさんは40代前半の女性です。10年前に転職してきて、堅実な仕事ぶりから後輩達の信頼も厚いものでした。そのグループでは、Cさんが実質的にリーダーになっていました。
ある時、この会社で部の構成を大きく変える組織変更がありました。Cさんのいたグループは元のままでしたが、他部にいたベテラン女性社員のYさんが新戦力として加わることになりました。Yさんは、Cさんより年長で、実務能力も対人関係能力も高く、Cさんのことを立てながらスムーズに仲間入りしたように見えました。
ところが、この組織変更の後、Cさんは急に元気がなくなり、仕事のミスが目立つようになったのです。自分のミスを認めないような振る舞いも垣間見られるようになり、周囲の人達との関係も急速に悪化していきました。Cさんは、とうとう会社でヒステリックになったり涙を流したりするようになり、Cさんのことを心配していた後輩達も言葉をかけられなくなりました。Cさんのグループは、Cさんの人が変わってしまったかのような変化に戸惑い、すっかりぎくしゃくしてしまいました。
この状況に驚いた部長は、Cさんと話し合いを持ちました。Cさんの言い分に耳を傾けようとしましたが、Cさんは「私だけが悪者にされている」といった一方的な主張をするだけで、埒があきません。話し合いを繰り返す内にCさんは黙り込むようになり、部長も困り果ててしまいました。何回目かの話し合いの後、残念なことにCさんは退職する意志を伝えてきました。
部長は、問題を起こした部下との話し合いを何度も経験してきた人でした。先入観を持たずに部下の言い分をよく聞き、もっともな点は受け入れることで問題を解決してきました。しかし、今回は話が全くかみ合わず、お手上げ状態になってしまい、虚しさを感じるばかりでした。部長は、初め、CさんとCさんの周囲の同僚たちの人間関係に問題があるのだろうと推測していたのですが、次第にCさん自身の問題なのかもしれないと思うようになりました。
Cさんの退職が近付いたある日、部長はもう一度Cさんと面談しました。そして、退職は残念だが、せめて一度、退職前に会社の契約カウンセラーと話してみてはどうかと勧めました。このカウンセラーは、仕事に行き詰って毎日が苦しいと感じている社員の相談にも乗ってくれる。会社の契約カウンセラーだからお金もかからないし、秘密も守ってくれる。何かのきっかけにはなるかもしれないと。そして、少しでも元気を取り戻してほしいと伝えました。Cさんも、退職を決意して少し落ち着いたのか、部長の提案に同意しました。
さて、Cさんとカウンセラーとの間ではどのような会話がなされるのでしょうか。この続きは次回に。