『発達障害』に関する五つの誤解

最近「発達障害」に悩む人々のことがマスコミでもたびたび取り上げられるようになりました。 発達障害とは、能力の発達度合いに大きなアンバランスがあり、その影響で日々の生活に支障が生 じていることを指す概念です。子育てや学校教育での対処の必要性が認識され、日本でも支援法が 制定されて、子供や青年に対する支援体制が整備されてきました。
しかしながら、子供時代に適切な対処がなされたとしても、発達障害そのものが時間とともに解消するわけではありません。従って、大人になって社会生活を営むようになってからの支援のほうが一層重要とも言えるのです。その上、外見からは障害の存在が捉えにくいという特性があり、自分が発達障害であることを知らずに大人になり、会社に就職してから困難に直面する人も少なくありません。
発達障害が世に知られるようになるにつれて、この障害がどういうもので、どう対処すべきかを解説する書籍も次々と出版されてきました。しかし、今でも様々な誤解が残っています。以下に企業の現場でありがちな5つの誤解を紹介しますが、あなたの職場ではいかがでしょうか?

誤解1 発達障害を有する人は少数であり、例外的な存在である。
発達障害に詳しい専門家の多くは、発達障害を持つ人は少なくないと見ています。ある専門家は、解説書 で「〔発達障害者の比率は〕10%を超えていると厚労省は考えている。日本の人口が1億3千万人とする と1千3百万人となる。これらのうち支援を必要とするのは、数分の1と考えられるが、それでも他の障害 とされるものと比べて、極めて数が多い」と記しています。 出典:『職場×発達障害』、南山堂、2017年

誤解2 発達障害を有する人は「少し変わった人」であり、周囲はその点をわきまえて付き合っていけばよい。
発達障害を有する人は、しばしば「なぜこんなことをするのか?」「なぜこんなことができないのか?」と周囲を困惑させます。これは、本人の意思や個性でそうなっているのではなく、能力のアンバランスのために、発達障害のない人なら自然に身につくスキルや常識的判断力が備わっていないためなのです。そのため、周囲が個性や得手・不得手の一種としてやり過ごしていると、のちのち重大な問題が表面化する恐れがあります。本人の能力の特性を周囲が的確に把握することが、問題を重大化させない第一歩です。

誤解3 発達障害を有する人は、コミュニケーション能力の欠如など、決まりきった特徴があるので、そこに対処すればよい。
発達障害は異なる障害をひとまとめにした概念です。主なものに、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあり、それぞれ特徴が異なります。また、個々の障害においても人によって症状にかなりの幅がある上、複数の障害が重なっている人もいます。発達障害に典型的な症状は確かにありますが、個別性を無視した画一的な対応ではうまく行きません。

誤解4 発達障害を有する人は、発達障害のない人と比較すると能力に不足があり、簡単で単純な仕事しか任せられない。
発達障害を有する人は、能力の発達度合いに大きなアンバランスがありますが、能力の様々な側面において「おしなべて能力が低い」わけではありません。発達障害のない人に比べ、ある側面では大きく下回っているが、別の側面では大きく上回っていて、アンバランスなのが特徴です。「これは込み入った仕事だから、彼(彼女)にはさせられない」と速断せず、本人の持つ能力の特性を多面的に把握して、仕事への適性を見極める必要があります。適性が合えば高い成果も期待できるのです。

誤解5 発達障害を有する人が職場にいると、その人のために、本来なら必要のない支援策を実施しなくてはならない。
発達障害を持つ人には知覚過敏を抱える人がいます。このような人が不安なく働けるようにするには、無用な刺激物を減らすよう職場環境を改善しなければならないでしょう。また、発達障害の影響で口頭での大雑把な作業指示を苦手とする人のために、詳しい作業マニュアルを作らなければならないかもしれません。けれども、このような支援策は、発達障害のない人にとっても有益である場合が少なくありません。その点は、身体障害者のために職場のバリアフリー化を進めることが、健常者にとってもプラスになることと、全く同様です。