職場におけるメンタルヘルスケア 第4回
※このコンテンツは、上田市商工会議所様広報誌にて2020年00月〜00月まで連載されていた寺沢英理子先生の投稿記事です。
―不安の元が見つかった―
前回登場したCさんがカウンセラーの下を訪れました。話し合いによってどんなことが分かったのでしょうか(以下は複数の事例をアレンジしたものです)。
Cさんは、「部長から勧められて来ました」と緊張した面持ちで挨拶しました。「よくいらっしゃいました」とカウンセラーに応対され、少しホッとしたCさんは、相談に至るまでの経緯を話し始めました。
転職して10年間頑張ってきたこと。組織変更で自分より年長のYさんが加わったこと。そして、それをきっかけにミスを頻発するようになってしまったこと。「ありえないようなミスをするので、どんどん焦ってしまいました」と辛そうに話すCさん。カウンセラーに「Yさんが加わると分かった時、どんなことを考えていたのですか?」と聞かれたCさんは、「Yさんがスムーズに仕事に慣れることができるように、どの仕事を任せようか、引継ぎの時期や順番をどうしようかと考えていました」と答えました。「Yさんのために、いろいろと心を砕かれていたのですね」と頷くカウンセラー。
この時、Cさんの目から涙がこぼれ落ちました。「でも、そんな必要はなかったのです…とても優秀な人で、どんどん仕事をこなしていくのです…私が10年かけてやってきたことを、あっという間に覚えてしまいました」とCさんは言葉を紡ぎました。
CさんはYさんに自分の居場所を奪われるのではないかという思いに駆られるようになったと打ち明けました。「Yさんはとてもいい方で、頭ではそんなことはないと分かっているのに、どんどん不安になっていったんです」と振り返りました。「ご自分でも違うと分かっている『思い』に心がかき乱されていたのですね」とカウンセラーはCさんの辛さに共感していました。「こんなことは初めてだったのですか」とカウンセラーが尋ねると、Cさんは思いを巡らせ、「いいえ、何度もあります」と答えました。「前の職場を辞めた時にも…いえ、もっと小さな時からかも…」と続けました。
面接の終わりに、カウンセラーは次のように伝えました。「自分の居場所を奪われてしまうかもしれないということは大変大きな不安だと思います。このような感覚を子供の頃から抱えながら、今までよく頑張ってこられたと思います。でも、それをこれからも繰り返していくことは辛すぎますね。Cさんは、私にちゃんとご自身のことを伝えてくださいましたし、ご自分を客観的に見つめることもなさっていました。一度本格的なカウンセリングを受けられてはいかがでしょうか」
Cさんは、カウンセラーの紹介を希望し、相談に行くよう後押ししてくれた部長さんへの感謝も述べて、相談を終えました。
今回の出来事は、社内の人事異動をきっかけに起こったものでしたが、そこにはCさんの個人的な問題(子供の頃の体験?)が大きく影を落としていました。Cさんにとって、退職は大きな痛手でしたが、この気づきを手に入れたことは、以後の人生にとって良い転機となったのでした。