はじめよう! 心の健康診断

職場におけるメンタルヘルスケア 第1回
※このコンテンツは、上田市商工会議所様広報誌にて2020年10月〜2021年3月まで連載されていた弊社カウンセラー寺沢英理子の記事です。

―どんないいことがあるの?―

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、仕事や生活に不安やストレスを感じているという声を聞きます。コロナウイルス感染症に限らず仕事を続けていくうえで、不安やストレスはつきものです。このような中で、産業メンタルヘルスに関する6回の連載のチャンスを頂戴いたしました。毎回、私が対応した事例を、脚色を交えて進めていこうと考えています。今回は、朝起きられず遅刻を繰り返す社員のお話しです。

【事例A】Aさんは30代半ばの独身男性です。入社以来、仕事ぶりは真面目で、同僚や上司からも信頼されていました。ところが、2週間くらい前から遅刻が頻発するようになり、仕事にも支障が出始めました。何度も注意されましたが改善せず、短気な社長さんは「もう首だ~!」と言い始めました。しかし、課長さんは、Aさんのことを心配して悩んでいます。課長さんは、1か月くらい前から、Aさんの様子で気になることがあったのです。

さて、Aさんはいったいどうしてしまったのでしょう。実は、Aさんは仕事やプライベートのストレスが重なり、その辛さから逃れるために帰宅後ゲームに耽っている内に、睡眠リズムが崩れてしまったのでした。30代半ばの人間がそこまでゲームにのめり込むだろうかと思われるかもしれませんが、一人暮らしの社員の場合、若い人でなくても珍しいことではありません。この現象は、お酒に逃げるのと同じメカニズムと考えてよいでしょう。お酒と同様、ゲームも、ストレス解消のためのちょっとした逃げ道になっている間はよいのですが、逃げる度が過ぎると生活のリズムを崩し、ついには本格的な睡眠障害に発展してしまうこともあります。「嗜癖」と呼ばれる範疇にまで進むと、生活が破綻し、本人が苦しむだけでなく、会社も人材を失ってしまいます。
しかし、急にこのような状況になるわけではなく、いくつかの前段階を経ているのが普通です。Aさんの場合も、課長さんは問題が深刻化する前から、いつもとは違うAさんの様子を感じとっていました。けれども、周囲の人が小さな変化に気付いて適切な対応ができるかというと、実は難しいことが多いのです。この場合も、課長さんはAさんに、「何か困っていることでもあるのかな?」と声をかけたものの、Aさんからはこれといった反応もなく、そのうちに状況がどんどん悪くなってしまったのでした。

ここでちょっと、体の健康診断を思い浮かべてみましょう。日々問題なく生活していると思っていたのに、健康診断を受けたら血圧や血糖値の異常を指摘されて驚くことがあります。体のことでもこんなですから、目に見えない心に関しては、なおさら定期的な健康診断が望まれます。そして、心の定期健診には、Aさんのような問題が起きた時に、対処の糸口になるという役目もあります。Aさん自身も心の健康診断の際にカウンセラーから説明を受けていれば、早めにSOSを出せたかもしれません。課長さんも、顔見知りのカウンセラーがいれば、心配事を気軽に相談できたことでしょう。
次回は、心の定期健診ではどんなことをするのかを、もう少し詳しくお話しします。